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体内時計のしくみ
概日リズムが作られるメカニズムは?
睡眠は、どのようなメカニズムで生じるのでしょうか?
長時間起きているとだんだん眠気が強くなり、徹夜が続くと目を開けているのも辛くなることはしばしば経験されることですね。
眠らずにいる時間が長いほど、眠ろうとする力が強く働きます。これは目が覚めている間に【睡眠物質】が蓄積していくか、あるいは【覚醒物質】が減少していくのではないかと考えられます。その候補物質がすでにいくつか見つかっています。しかし、「これがなければ眠れない」という絶対無二の睡眠物質は見つかっておらず、複数の物質がかかわっているようです。
もうひとつ、時刻によっても眠気は変化します。徹夜した日など、夜半から明け方は、眠くて集中力も途切れがちですが、夜が明けてくると眠っていないにもかかわらず次第に目が冴えてきます。
体の中に時計があり、朝になると目が覚めるように体に指示を与えているようです。この時計を、体内時計といいます。眠気のほか、体温やホルモンの分泌など、さまざまな生理現象が体内時計にコントロールされて昼夜変動を繰り返しています。
体内時計は、自分の力でほぼ24時間周期のリズムを刻むことができます。海外旅行に行った時など、疲れていても夜なかなか眠れなかったり、逆に昼間から眠くなって困ることがあります。これは、たとえばアメリカにいるにもかかわらず、体内時計がもとの日本時間で動いており、アメリカ時間で動くようになるまでに数日から数週間かかるため、現地の昼夜リズムと体内時計にコントロールされる睡眠覚醒リズムがずれるために起こります。すなわち、
【時差ぼけ】は体内時計が自分でリズムを刻む力をもっているために起こるともいえます。
体内時計の中心は、人間などの哺乳動物では、脳の中の視交叉上核(しこうさじょうかく)という神経細胞の集まりに存在することがわかっています。左右の眼球の後ろから出ている視神経は、頭蓋骨の真ん中、眉間の奥に相当するあたりで交叉するのですが、この交叉する場所(視交叉)のすぐ上に左右ひとつずつあるのが視交叉上核です。
ネズミなどの実験動物は、明るさの変化しない(時刻を知る手がかりがない)ところで飼っていても、体内時計の働きでほぼ24時間ごとに活動−休息(睡眠)を繰り返すのですが、視交叉上核を破壊すると、24時間周期での活動が消え、活動−休息が不規則に出現することが実験で確かめられています。
この視交叉上核にある神経細胞の一つ一つがほぼ24時間周期で動く時計として働いています。ネズミの視交叉上核を切り出し、細胞をバラバラにしてしばらく培養し、電気活動を記録すると、一個一個の神経細胞が、それぞれほぼ24時間周期で活動するのがWelshらによって観察されています。視交叉上核では、これらの神経細胞が互いに連絡しあい、全体として規則正しい強固な約24時間周期のリズムを作っているのです。このリズムのことを、概(がい=おおよそ)日(じつ=一日)リズムといいます。
視交叉上核の神経細胞の中では、どのようなしくみで概日リズムが生まれているのでしょうか?
ここ数年、世界中の研究グループから次々と新発見が報告され、時計遺伝子と呼ばれる遺伝子群によって概日リズムが作られるメカニズムが明らかになってきました。
Bmal1という時計遺伝子から作られたBMAL1蛋白は、Clockという時計遺伝子から作られたCLOCK蛋白と対になり、Per1遺伝子やPer2遺伝子、Cry1遺伝子、Cry2遺伝子からメッセンジャーRNAができるのを促進します。
時間とともにPer1/2、Cry1/2遺伝子のメッセンジャーRNAが増え、そこから作られるPER1蛋白、PER2蛋白、CRY1蛋白、CRY2蛋白の量も増えていくのですが、増えたPER1/2、CRY1/2蛋白は、逆にPer1/2遺伝子、Cry1/2遺伝子などから、メッセンジャーRNAができるのを抑制する働きをします。つまり自分たち自身が産生されるのを抑えようとするのです。
すると、今度は徐々にPer1/2遺伝子、Cry1/2遺伝子のメッセンジャーRNAの量が減ってきます。次にPER1/2蛋白、CRY1/2蛋白の量も減るので抑制がとれ、再びBMAL1蛋白、CLOCK蛋白によってPer1/2、Cry1/2遺伝子のメッセンジャーRNAの産生が促進されることになります。
これがほぼ24時間周期で繰り返され、Per1/2、Cry1/2などの時計遺伝子がほぼ24時間周期で増減し、概日リズムが作られていくのです。
体内時計は体中にあります。
さて、体内時計というと、以前は脳だけにあると思われていましたが、最近、体中にあることがわかってきました。
肝臓や筋肉、肺、心臓といった臓器や、脳の中の視交叉上核以外の場所にも存在するのです。視交叉上核にある体内時計を【主要時計】といい、それ以外のところにあるのを【抹消時計】といいます。【抹消時計】は自分だけでは長期間リズムを作れないので、普段は【主要時計】にコントロールされています。主要時計が抹消時計をコントロールする際には交感神経が重要な役割を果たしていることが報告されています。肝臓にある抹消時計では、食事の時刻によってリズムが変わることが判明しています。
ネズミに対する実験で、夜行性の、すなわち夜間にえさを摂るネズミに、昼間にだけえさを与えるようにすると、視交叉上核にある主要時計のリズムは変わらないのに、肝臓にある抹消時計のリズムが昼夜逆転してしまったのです。抹消時計は普段は、主要時計の支配下にありますが、状況に応じて独自に動く柔軟性も備えているようです。
ではなぜ体中に体内時計があるのでしょうか?
これは、体の各臓器を適切な時刻に活動させるためではないかと考えられています。たとえば、私たちは朝目が覚めると起き出して体を動かします。一日3回食事をします。したがって、毎日ほぼ決まった時刻に筋肉や、消化管、肝臓などを働かせなければならないのですが、目が覚めてから急に筋肉に使うためのエネルギーを準備したり、食事が始まってから消化管を動かすより、あらかじめその時刻が来る少し前から、抹消時計を使って準備しておいた方が効率的と考えられます。
臓器によって活動すべき時刻は異なりますから、それぞれの臓器ごとに専用の抹消時計をあてがい、体全体としては主要時計で調和を保たせるという仕組みはたいへん合理的に思えます。
複数の研究グループがDNAチップを使って数万個の遺伝子の発現量の変化を一度に調べたところ、視交叉上核だけでなく、肝臓や心臓でも、約10%の遺伝子の中身は、臓器によってかなり異なるようです。つまりそれぞれの臓器ごとに必要にさまざまな機能が体内時計に支配されているようなのです。人間の体内時計もネズミとほぼ同じメカミズムで動いていると考えられていますので、同様の現象が起こっていると考えられます。
視交叉上核にある【主要時計】がつくるリズムは24時間より少しずれているため、そのままにしておくと、外界の昼夜リズムから徐々にずれてしまいます。それを防ぐため、体内時計を昼夜リズムに合わせなければなりませんが、そこでもっとも大きな役割を果たすのは、【光】と考えられています。私たちは毎朝太陽の光を浴びることにより、体内時計をリセットしているのです。
光を体内時計に伝える役割を果たすのは、ロドプシン、オプシンなど、視覚(ものの形などを見ること)に関わる光受容体と、メラノプシンという、視覚には関わらない光受容体の両方だと考えられています。 |