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■ 非24時間型睡眠・覚醒症候群
人間は普通、1日24時間周期の昼夜リズムの社会環境下で生活しているにもかかわらず、入眠・覚醒時刻が次第に遅れていき、まるで社会と隔離された実験室などで観察される自由継続リズムのように24時間より長い周期の睡眠・覚醒リズムを呈するものを、非24時間型睡眠・覚醒症候群(Non‐24‐hour sleep-wake syndrome;Non-24)と呼びます。
1.症状と診断
Non-24は、睡眠相が毎日ほぼ一定時間ずつ(多くは1時間前後)後退することが基本的な症状です。下のブロックに示す睡眠障害国際分類の診断基準を参考にして下さい。
Non-24患者は、入眠障害、入眠時刻が毎日遅れていくことに対して、一定の時刻に就寝しまた覚醒しようと自身で努力する場合、1ヶ月のうち10日ほどは著しい夜間不眠と日中過眠を示すなど、周期的な不眠や覚醒困難として自覚されるとされます。
昼間に睡眠時間帯が出現する時期に、日中無理に覚醒していても、眠気や集中力低下、集中持続困難や易疲労感、倦怠感が出現します。このような場合、慢性疲労症侯群と診断されることもあるといいます。
こうした疲労症状は、24時間以上(多くは約25時間)である患者の内因性リズムにしたがって自由に生活した場合は消失します。Non-24症候群を疑った場合は、このように自由に生活した場合に、睡眠時間帯が毎日遅れていくことと、それに伴って疲労症状(精神症状や身体症状)が消失することを確かめる必要があります。Non-24症候群だと診断確定するためには専門医に相談して入院生活を送ったほうがよい場合もあります。
Non-24症候群を呈する患者には、就労困難や、周期的な登校困難がみられることが多く、深刻な社会的不適応をきたす場合があります。概日リズム睡眠障害では概して社会適応が障害されますが、その社会的困難度は、睡眠相後退症候群(DSPS)よりもNon-24のほうが困難度が高くなります。
これはDSPSでは睡眠時間帯が一定であるために、夜間勤務には適応できたりフレックスタイムでの勤務が可能な場合があるのに対し、Non-24の場合は睡眠時間帯が日毎にずれていくために、普通の社会生活を営めなくなってしまうことによるものと考えられます。
さらに、Non-24症候群やDSPS患者に対する専門家の調査によると、少なくない割合で、うつ状態、抑うつ状態の既往をもつ症例やうつ状態を呈する症例が含まれていることが指摘されています。
その理由としては、心理的な側面と生物学的な側面の2つがあげられるととています。心理的な側面としては、先に述べたような頭重感や易疲労感、集中困難などの身体症状を伴い、起床困難のための出勤・登校が出来ない状況が持続するために、二次的に自信喪失や抑うつ気分・意欲低下などが生じてくる可能性があるということ。
生物学的な側面としては、睡眠と体温などの生体リズムが同調できなくなっていることが、うつ状態を悪化あるいは促進している可能性や、睡眠相の遅れが日照時間を短縮し、冬期うつ病と同様の機序でうつ状態が生じてくる可能性などが考えられる、といいます。
精神分裂病や内閉的性格特徴をもつ人格障害あるいは不登校児にNon-24症候群がみられることが報告されています。生体リズムの障害を起こしやすいようななんらかの脆弱性がこれらにみられるということも考えられます。しかし、引きこもりがちな生活態度のために、光や社会的接触などの同調因子を得にくく、外界の明暗周期に同調できない状態におちいっている可能性もあるといわれています。
Non-24症候群は思春期から青年期に発症することが多いとされてます。夏休みなどの長い休暇中の昼夜逆転生活、高校入学による通学の遠距離化、受験勉強など生活環境の変化が発症の誘因となります。このように発症の誘因は学生などの夜更し生活によくみられるありふれたものです。ここから生活をもとに戻せない点が、Non-24症候群の特徴といえます。
長期にわたって経過を観察していると、Non-24とDSPSの間には移行がみられることがあるといいます。しばしば、DSPS患者が一時的に自由継続リズムのような約25時間周期の睡眠・覚醒パターンを呈することが観察されるともいわれています。
3.対 策
このような概日リズム睡眠障害に対しては、従来のベンゾジアゼピン系を中心とする睡眠薬では十分な効果が得られないことが多く、したがって、生体リズムのずれを修正することを中心とする治療法が必要であるとされています。これは時間生物学的治療法と呼ばれています。以下に代表的な時間生物学的治療法について述べます。
a.高照度光療法
高照度光療法とは人工照明器を用いて高照度光(2500ルクス以上)を一定時間暴露させる方法で、高照度光により、遅れた睡眠相を前進させることを目的とする治療法です。
光による位相反応曲線の基本的特性がヒトでもみられることが明らかになり、それによると、深部体温が最低点から上昇に転じる早朝に高照度光を与えると、生体時計の位相が前進する。Non-24やDSPSに対する高照度光療法は、この特性を利用して睡眠相を前進させると考えられている。照射時刻は患者の深部体温を測定した上で、この時刻を設定することが望ましいとされています。
光治療の効果は比較的早期にみられ、1〜2週間で効果が判明するケースがほとんど。3週間以上経過してもほとんど効果がみられない場合には中止するか、他の時間生物学的治療法と併用してみるとよいとされています。
最近(1998年)CampbellとMurphyという研究者により、ヒトが膝の裏に光照射を行った場合でも深部体温リズムやメラトニン分泌リズムの位相が変化する、という報告がなされています。これまで光照射の効果は哺乳類では網膜を介してのみ発現すると考えられていたことから、非常に興味深い報告ですが、その機序などについてはまだ不明な点も多く、この結果についてはさらに検討する必要があるのだろうと思われます。
b.ビタミンB12(methylcobalamine)
睡眠・覚醒睡眠障害に対するビタミンB12は、1983年にNon-24の症例に対して効果があることが偶然に見いだされて以来、その概日リズム睡眠障害に対する有効性についての報告が多くなされています。
その作用機序としては、睡眠覚醒リズムの周期を変える、同調因子に対する感受性を高める、入眠促進効果を持つ、といった可能性が考えられますが、現時点でははっきりとした結論には至っていません。健常者にビタミンB12を投与した実験で、恒常条件における午前中の体温を上昇させ、光によるメラトニン分泌抑制率を増強することが指摘されています。これらの結果からは、ビタミンB12は体内時計の光感受性を高める可能性が推測されています。投与量は、1.5〜3.0mg/dayで、正常範囲を越える血中濃度で効果があると報告されています。
c.メラトニン
メラトニンを午後から夕方にかけて投与すると生体リズムの位相が前進することがわかっています。こうした作用から、概日リズム睡眠障害の治療に利用されるようになってきました。Non-24に対する投与法としては、入眠時刻がほぼ望ましい0時にきた日から毎日21時に投与し続けることでフリーランを止めることができるとの報告があります。
投与法としでは、1〜3mgを実際に入眠できる時刻(前夜入眠した時刻)の5時間前に投与し、位相前進させる時間帯に作用することを期待します。1回投与では無効であったが3回に分割して投与することにより有効な症例もあったといいます。メラトニンの血中半減期はきわめて短いため、分割投与することにより血中濃度を長時間維持することができ、投与時刻による治療反応性の問題をなくすことが出来るとされます。この投与方法(平均的入眠時刻の5時間前から2時間間隔で、0.9〜3mgを3回に分割して投与する方法)をもちいて16例のNon-24を治療した結果、フリーランが停止したものが14例(87.5%)であり、そのうち朝9時までに起床できるようになったものは5例(31.2%)であったという研究成果があります。
いずれにせよ、メラトニンの作用を十分に発揮させるためには、その特徴的な作用特性に従った適切な投与方法が考えられるべきであり、今後の研究結果が期待されます。 |
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